マラウイの教育の質と内部効率性の問題-SACMEQの結果から

みなさん、こんにちは。サルタックジャパン理事で、現在ユニセフのマラウイ事務所で勤務している畠山です。今日はネパールから少し離れて、ここマラウイの教育の話をしてみたいと思います。

 

マラウイでは、初等教育の純就学率は既に100%近いところまで来ていて、次の教育課題は中等教育の女子教育・教育の質/内部効率性・就学前教育と言われています。国際学力調査の結果をもとに、今回は教育の質と内部効率性の話をしていきます。

 

教育の質や内部効率性を測定する一つの方法として国際学力調査を挙げることが出来ます(教育の質は、国や地域、教育を受ける個人によって意味合いが違ってくるので、学力調査の結果だけをもって教育の質としてしまうのはやや危険ですが)。国際学力調査というと、OECDが実施しているPISAや、IEAが実施しているTIMSSがありますが、南部アフリカや仏語圏アフリカのような地域ごとに実施されている国際学力調査も存在します。仏語圏アフリカで実施されているものはPASEC、南部アフリカで実施されているものはSACMEQ(The Southern and Eastern Africa Consortium for Monitoring Education Quality)と呼ばれています。

 

SACMEQの結果はPISAと同様に、全体の平均点が500点、標準偏差一つ分が100点になるように点数が標準化される国際学力調査です。マラウイのReading(読解力)のスコアは434点と参加国中最下位で、Mathematics(算数)のスコアも447点と下から二番目の順位となっています。
マラウイの教育の質の特徴として、社会経済的な背景にかかわらず子供たちの成績が平等に悪い、という点を挙げることが出来ます。マラウイは最貧困層と最富裕層の学力格差でも、都市と農村の学力格差でも、参加国中格差が最も小さくなっています。参加国の平均は貧困層と富裕層の学力格差で、Readingで64点、Mathematicsで47点、都市と農村の学力格差でReadingで59点、Mathematicsで41点となっているのに対して、マラウイでは貧困層と富裕層の学力格差がReadingで13点、Mathematicsでは驚きの3点で、都市と農村の学力格差もReadingで20点、Mathematicsで14点となっています。

 

ちなみに、参加国中で最も貧困層と富裕層の学力格差が大きい国は南アフリカで、Readingで159点、Mathematicsで119点となっています。都市と農村の学力格差が最も大きい国は、私がかつて勤務してたジンバブエで、Readingで122点、Mathematicsで97点となっています。
なぜマラウイでは学力にばらつきが少ないのかについては様々な要因が考えられます。経済的な要因に言及すると、マラウイの都市人口比率は依然として20%を割り込んでおり、しかもこの比率はこの20年間でほとんど変動が無い、すなわち都市化や経済発展が全くと言っていいほど起こっていないので、格差が発生する余地がないという点が挙げられます。確かに、マラウイに出張に来た世銀時代の同僚に何人か会ったのですが、みんな口をそろえてこれほど都市化が進んでいない首都は見たことが無いと言います。

 

教育的な要因を言うと、政府の努力とドナーの支援を挙げることが出来ます。まず教員配置についてですが、どこの途上国でも一般的に農村部の教員の質は都市部のそれと比べて遥かに劣るものですが、マラウイ政府はそれなりに大きな額のrural allowance(農村部の教員に対する金銭的補助が支給され、日本のへき地手当に相当します。現在、女性教員に対してはこの手当をさらに増額させる政策議論が進んでいます)を出していますし、さらに教員養成校を卒業した学生には2年間農村部で勤務することを義務とするなど、農村部に優秀な教員が赴任するよう努力をしています。そして、ドナーの基礎教育支援も良くも悪くも一般的に農村部が重視されています。世界子供白書2012が都市型の貧困に焦点を当てていたにもかかわらず、都市型貧困対策は2019年から始まる次の支援計画でようやく取組が行われる予定です。このため、貧しい農村部とある程度中間層がいる都市部で(どちらも酷いですが)それほど教育環境に差が無いのがマラウイの現状かもしれません。
次にマラウイの教育の内部効率性の特徴の話をすると、SACMEQの受験者の平均年齢が高い、という点を挙げることができます。受験対象者は小学校6年生、すなわちマラウイでは6歳から小学校教育が始まるので、順調にいけば受験者の平均年齢は12歳前後となるのですが、実際は14歳を超えてしまっています。

 

この現象の背景にあるのは高い留年率です。一般的に途上国では就学前教育が十分ではないため、子供たちが学校教育を受ける準備が出来ておらず、低学年での留年率が高くなりがちですが(マラウイでも小学校一年生の留年率は30%近くなっています。)、マラウイの場合は全学年を通じて留年が多く、留年率は6年生を除いたすべての学年で20%を超えています。このため、14歳と言えば既に小学校を卒業しているはずの年齢なのですが、この年齢の大半の子供はまだ小学校に在籍しているため、小学校6年生で受験するSACMEQの受験者の平均年齢が14歳にまで達してしまっています。

 

この留年の問題がどれだけ深刻化というのは、中学生に相当する年齢の子供たち(14-17歳)の就学状況を見ると良く分かります。MICS (Multiple Indicators Cluster Survey)という、私が勤務しているユニセフが実施している家計調査があるのですが、これの最近のデータによると、中学校に相当する年齢の子供たちのうち、現在学校に通っていない子供の割合は、男子が16%、女子が23%となっています。最貧国の割には意外と中学校相当の子供たちの間でも不就学は少ないんだなと思うかもしれません。しかし、中学校相当の子供の中でちゃんと中学校に通学している子供の割合はというと、男子で14%、女子で18%と、不就学児童の数よりもさらに少ないことが分かります。つまり、中学校相当の男子の70%、女子の60%は依然として小学校に通っているのです。留年する子供が多いということは、それだけ学びなおしの機会が与えられているわけで問題ないじゃないか、と思う方もいるかもしれませんが、それは誤りです。留年は基本的に学力向上には効き目がありませんし、教室の混雑を招き、新たに教室を建てる・教科書を配布する・椅子や机を用意する、といった追加的なコストが必要になります。詳しくはこちらの記事をご参照ください→留年制度は効率的で効果的か?

 

そして、この高い留年率が与えるインパクトの大きさは男子と女子で異なってきます。というわけで、次回はマラウイの女子教育にフォーカスを当てて話をさせていただこうと思います。